私は天使なんかじゃない
閉幕
幕が上がれば必ず下りる。
開幕があれば閉幕がある。永遠に続くなんてありえない。
実に簡単な理屈。
幕を下ろすとしよう。
閉幕の頃合だ。
「降参するわ。降参」
「ほう」
カール中佐は目を細めた。
私は手にしていた武器を捨てた。銃火器は床に転がる。
床に転がった銃火器のすぐ側には血塗れのアッシャーが膝を付いていた。意味は分かる。マリーはカールに、サンドラはタロン社の構成員に羽交い
絞めにされている。逆らうに逆らえない状況、だからフルボッコされたのだろう。一家の家長として百点満点ね。
私は逆らう意思がない事を示すように両手は上げたまま。
タロン社の傭兵6名の自動小銃は私を狙っている。
危険な銃口は私をロックオン。
だがすぐには撃たれる事はなかった。カールが制しているからだ。
彼の気分次第で私は殺される。
だけど私はカールがすぐに殺さないという事を踏んでいた。もちろんあくまで推測だから必ずそうとも言えないだろうけどさ。今の私の行動の
根幹はハッタリが大半。しかし戦闘においてハッタリは必要。物事は臨機応変にね。
銃を撃つだけが戦闘ではない。
ハッタリもまた武器だ。
さて。
「カール、協力し合いましょう」
「ほう?」
興味深そうに彼は私を見ている。
もちろん心底私と組もうとかは彼は思っていないはずだ。彼との付き合いは……まあ、妙な因縁で結構長いけど、あまり人となりは知らない。ただ分かる
のは馬鹿ではないという事だ。野心家で自信家。これでただの馬鹿なら扱いやすいんだけど彼は賢い。
悪知恵が働くと言った方がいい?
まあ、ともかく頭が良い。
上手い話で乗せる事は出来ないけど時間は稼げる。
それに私はタロン社の敵として結構長い間生きてきている。そして今、私は追い詰められた。少なくとも表向きにはね。カールはタロン社の上級仕官の1人
として絶賛活動中である以上、散々組織に煮え湯を飲ませ続けた私の降伏はそれなりに興味深いはず。私がどう振舞うか興味があるはず。
それを利用させてもらいます。
「どう協力し合う、赤毛」
「一番最初に私と接触した際の階級は?」
「少尉だ」
「今の階級は?」
「中佐だ」
「スピード出世よね。あんたの出世、ある意味でハイウェイをF1カーで全力疾走するぐらいのスピードじゃない?」
「何が言いたい?」
私は腕組みする。
カール中佐は私の会話に引き込まれつつある。
話術もまた武器だ。
いかに相手を会話で引き込むか、それもまた武器の1つ。ハッタリにしろ話術にしろ実用的な殺傷能力はないけど武器になる。
使い方次第では銃弾よりも鋭い。
もちろんリスクもあるけどさ。
命懸けです。
まあ、戦闘している以上、武器を使おうが言葉で戦おうが常に命懸けなんだけどさ。
恩着せがましく私は振舞う。
そして秘密めかした発言。カール中佐は私に対して興味を抱いている。妙な真似をすればすぐに射殺出来ると踏んでいる、立場的には自分が有利
だとカールは思ってる、そしてその取り巻き達もね。偽ワーナーよりも頭が回るようだけど私の相手をするにはまだまだだ。
口先三寸は私の得意技です。
ある意味詐欺師かも。
ふふふ。
「私に感謝しなさいよ」
「一体どういう意味だ?」
「そのまんまよ。私が敵としている限りあんたは出世出来るって事。出世したとはいえ中佐止まりで終わるつもりはないんでしょ。大佐目指すんでしょ」
「……」
「どうしたの、カール中佐。まさかその階級で満足してんの?」
「……」
「私が階級を引き上げてあげる」
「何?」
こいつは何を言い出したんだ、そんな顔をカールはした。
よーしよし。
完全にこっちのペースに引き込んだ。
相手は余裕の状況、慢心してる油断してる。この状況は引っくり返らないと思ってる。そこが隙になる。策謀は相手の思い込みを利用するのが最適。
今、カール達は私の術中にある。
妙な事をしたら射殺すればいい、その思い込みと思い上がりが油断であり敗北へ転落するフラグ。
私は静かに微笑。
そして秘密めいたニュアンスの笑みを秘める。
「私の所為にすればいいじゃない、あんたの出世の障害となる連中の不審死はさ」
「……」
「出世のライバルが死ねば必然的に残った者が繰り上がる」
「……」
「そう思わない?」
最後の言葉は少しトーンを落とす。
まるでこの場にいる部下達に聞かれてはまずいかのように。
部下達はカールの意を汲んで私に銃口を向けたまま待機しているものの、表情には感情が走った。それは疑念と疑惑、猜疑心だ。カール中佐が自作自演
で出世のライバルを消すかもしれないという猜疑心を私は彼らに植え付けた。
カールに忠誠を誓っている者はいい。しかし上官にではなくタロン社に対して忠誠を誓っている者にしたら私の提案は由々しきものだ。
それに。
それにカールは私の発言に対して興味を示している為に攻撃指令は出さない。
つまり私の発言を楽しんでいる。
だけど部下はそうは思わない。攻撃指令を出さないのは、私の誘いに心を動かしているかもしれないという疑念を持つはずだ。そもそもカールのスピード出世
に対してタロン社内部でも色々と噂話が飛び交ってるはずだ。普通じゃないスピードだもん、外部の私から見てもさ。
発言によってこいつらの連携を断つ。それが狙い。
これもまた勝つ為の布石だ。
畳み込む。
「私の懸賞金は?」
「最初はボルト101の監督官からの依頼で1000キャップ。しかし今では依頼を通り越してタロン社の面子として独自に賞金を懸けている。100000キャップだ」
「上級士官も動くわね」
「ああ」
「組織の中で出世するのに一番なのはライバルに消えて貰うのが一番。私が暴れる、そいつを殺す、あんたは適当に振舞って活躍する、それだけであんた
は出世するんじゃないかしら。カール大佐の登場はすぐそこまで来てるんじゃない?」
「下らんな」
「そうかしら?」
「どっちにしろ結果的には殺すんだ。ここでお前を殺せば一気に大佐になれる。組む必要はないよ」
「あんたの野心はそんなもの?」
「何だと?」
「タロン社で成り上がるだけで満足? ……乗っ取りとかは考えてないの?」
「さあな」
「出世の為に謀殺しちゃうぐらいだからそれぐらい考えてると思ったわ」
「謀殺してるだなんて一言も言っちゃいないぜ」
「こりゃ失礼」
ガッ!
カールに微笑しながら私はインフィルトレイターを踏んだ。血塗れで膝を付いたままのアッシャーが武器に手を伸ばしたからだ。
私はそのままアッシャーを蹴り上げる。彼は銃を手にしたまま引っくり返った。
44マグナムを私は拾ってアッシャーに向けた。
「余計な事したら殺すわよ。大切な話の最中。おっけぇ?」
「余計はてめぇだよ、赤毛。ドサクサ紛れに銃を手にしてるんじゃねぇよ」
「こりゃ失礼」
あっさりと44マグナムを床に落とす。再び私は腕を組んでカールに向き直る。どうやら時間切れらしい、カールの目には殺意が灯った。
だけど残念。
あんたも私的には時間切れ。
さよならしよう。
ピピ。
腕を組みながら私はPIPBOY3000を操作する。部屋に入る前に既に準備は出来ていた、あとは決定のボタンを押すだけだ。
そして……。
「アッシャーっ!」
私は叫ぶ。
それと同時にタレットの機銃が作動。ダダダダダっと機銃が連射される。部屋に入る前に標的設定はしてあった。
狙いは4名。
いずれもサンドラとマリーを巻き込まない場所にいる面々だ。
機銃はその者達を射抜く。
アッシャーも同時に動いた。元BOSの兵士という前歴のアッシャーは状況を理解して武器を構える。私の長い長い戯言もアッシャーが武器を拾うまでの
時間稼ぎだ。彼に拾って欲しくてわざわざすぐ側に落とした。そして私はアッシャーがインフィルトレイターを拾うのも予測していた。
8名の敵を相手にするのだから六連発の44マグナムでは全ては倒せない。
私がどっちよりかも分からない状況下では連射系の武器を手にしてこの場で有利に立つ必要性がある。だから彼がそれを拾うのは分かってた。
タロン社はまだ立ち直っていない。
今ならやれる。
「足元狙ってっ!」
「おうっ!」
インフィルトレイターを低く掃射するアッシャー。さらに2人がその場に崩れ落ちる。ただし死んだのではなく足を撃ち抜かれただけ。今のところはね。
バッ。
相手方は立ち直りつつあるものの、私はその時44マグナムを拾っていた。
サンドラを羽交い絞めにしていた奴は狼狽して彼女を突き飛ばして銃を抜こうとした。それが命取りとなる。
私は発砲、そいつの額を撃ち抜く。
ドサ。
そのまま額に穴を開けた男は真後ろに倒れた。
ピピ。
さらにPIPBOYを操作、タレットの標的を再設定。
ダダダダダっ。
足を撃ち抜かれた2人も蜂の巣になる。
「カール中佐、ここまでのようね」
「くっ!」
「野心と謀略は専門みたいだけど戦闘はそれほど上手ではなさそう。そんな奴が戦いの場に出ちゃ駄目じゃない?」
「……分かってないな」
「ん?」
「餓鬼は俺が握ってるんだぜ?」
「ああ。そうね。でもその子が目的なら手荒には扱わないでしょう?」
「野心は俺の命の次だ。死んだら元も子もない」
「……」
カールはマリーを右手で高く掲げる。撃ったところでマリーに当たる心配はないけど……射殺した時、マリーはおそらく床に叩きつけられる。
じりじりとカールは後退を始める。
なかなか頭が良いわね。盾にするにはマリーは小さい、だからカールはいっそ盾にせずに高く掲げた。どの部位を撃ってカール中佐の息の根を止めた
としてもマリーは床に落ちる。赤子だからもしかしたらその衝撃に耐えられないかもしれない。
どうする?
その間にも彼はじりじりと後退、左手でホルスターのトカレフを引き抜いて私に向ける。
「追ってくるな。そしたら殺さん」
「それを信じろって?」
「そうだ。お互いに怪我をせずに済む」
「マリーは?」
「そいつは諦めろ。この餓鬼の誘拐はダニエル・リトルホーンからのタロン社に対する依頼なんだよ。つまりは仕事だ。それはきっちりとしないとな」
「……」
「ピクリとも動くんじゃないっ!」
「……」
そして。
そして地面に叩きつけられた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
落ちた。
カールの右の二の腕が。それでも彼の闘争心は残されていた。左手の銃を私に向けて撃とうとする。その時、サンドラが隠し持っていた短銃をカール
の胸元目掛けて発砲。44マグナムだ。強力な弾丸はコンバットアーマーを貫通、カールは血反吐を吐く。
マリーは元気に泣いていた。グリン・フィスの腕の中で。
「主、お待たせしました」
「本当。遅かったわね。でも許す。ご苦労様。その子は彼女に渡して」
「御意」
マリーをサンドラに渡すグリン・フィス。
何が起こったか。
私も咄嗟には分からなかった。突然炎の刃を手に誰かが乱入、カールの右腕を刎ね飛ばしたのだ。腕とマリーは宙を舞う、彼はマリーを受け止めた。
それが事の顛末。
そしてそれはわずか数秒の間で行われた。カール自身突然で判断が出来なかっただろう。
グリン・フィスは黒いコンバットアーマーを纏っていた。
タロン社のマークはないけど同型タイプだろう。ちょっと見ない間にイメチェンしたらしい。一見すると異風の剣士。
腰には32口径ピストルがあった。
銃に目覚めたらしい。
特に気になるのはグリン・フィスの武器だ。背中に妙なタンクを背負い、そこから延びるチューブが手にしている剣に繋がっている。剣は燃えていた。
何だあの武器?
「シシケハブです、主」
「ふぅん」
よく分からないけど物騒な武器持ってるなぁ。
まあいいけど。
「ここまでよ、カール」
「ううう」
意識は混濁しているようだ。
無理もない。
弾丸は体内に残っていないとはいえ胸を撃たれたのだ。まともに動けるのであれば人間やめた方がいい。
人間規格外の私でさえジェネラルに撃たれた際には生死を彷徨ったわけだし。
「二転三転実に楽しそうだな。悪いが俺はタロン社に付くぜ。キャップ払いが良さそうだからな」
「……あんたか」
傭兵ジェリコだ。
雇い主のパラダイス・フォールズの奴隷商人が撤退したから早速別の雇い主に鞍替えするらしい。節操のない奴だ。
手にはアサルトライフルがあった。
銃そのもの特に怖くないけどグレネードランチャーが装備されている。私の銃だ。
「行くぜ、タロン社の旦那」
「ううう」
「助けてやるから後でキャップ払えよ。大量にな」
「ううう」
よろめきながらカールはジェリコの元に歩いて行く。歩けるのか。驚きだ。なかなかタフな奴ね。
アッシャーは銃を構える。グリン・フィスも刃を構え直す。サンドラはマリーを連れて後ろに下がる。私は攻撃しようとする男2人に首を振った。
グレネードランチャーを敵にする気はない。
室内で炸裂すれば何人か死ぬ。誰が死ぬかは知らないけど死人が出る。もちろん相手が攻撃して来たらこっちもやり返す、その結果ジェリコもカール
も死ぬ。それはジェリコにも分かっているから、まあ、撃ってはこないだろ。相手の死体はどうでもいいけど仲間の死体は見たくない。
逃がすのが得策かな。
私は肩を竦めた。
「逃げればいいわ。どうぞご自由に」
「追ってくるなよ、ボルトの女」
「まさか。しないわ、そんな事。良い厄介払いよ。勝手にどっかに行けばいい」
「……」
ジェリコはカールを連れて逃げて行く。
私は追う事はしなかった。
どのみちカールのあの傷はかなりのものだ。出血が凄い。まず死ぬだろう。まあ、スティムパックを大量に投与すれば傷は塞がるだろう。だけど輸血
の血液はあるのかな。そのあたりは従軍医の有無と医療品の品揃えが影響してくる。カールは死ぬかな?
ただ確実なのはピットに来たタロン社の部隊は全て潰す。
カールは生き延びたにしても中佐の地位に留まる事は出来ないだろう。部隊が壊滅すれば失脚する。それが指揮官としての責任だからだ。
どん底まで落ちるといいわ。
まあ、まず出血多量で死ぬけど。
敵は部屋にいなくなった。
残りは外に展開している部隊だけだ。
「さあ閉幕の時間。無粋に居残る観客にはご退場願わないとね。行くわよ、グリン・フィス」
「御意」
グリン・フィスがいるのであればクリスチームもいるだろう。
心強い仲間の登場だ。
厄介は全部終わらせるわよっ!
「こちらです」
「分かった」
グリン・フィスほ先頭に私は後に続く。アッシャー家族は執務室で待機中。タレットの設定もしたしタロン社が来ても撃退できるだろ。
少なくとも出入り口をアカハナ達が死守している限りはね。
私は通路を歩く。
向かう先はバルコニーだ。
そこから屋敷に突撃してくるタロン社の面々を撃退しているらしい、クリスチームは。
……。
……というかどこから侵入したんだ、グリン・フィスとクリスチーム。
玄関?
まさかそれはないだろ。
アカハナ達にしたらまったく面識のない面々を通すわけがない。特に今は非常事態なわけだし。
まあ、侵入口はどうでもいいか。
私にしたら最強の仲間。
実に心強い。
そもそも今まで登場も活躍もしてなかったわけだから最終決戦ぐらいは活躍して貰わないとね。
さて。
「俺は機械だっ!」
「クリスティーナ様に聞けっ!」
バルコニーに出る。
そこにはハークネスとカロンが下に向けて銃弾の雨を降らしていた。
ハークネスは相変わらずミニガンを乱射しているけど、妙な銃も背負っている。
カロンは中国軍アサルトライフルを掃射していた。現在出回っている国産アサルトライフルよりも威力の面では高い。腰にはソード・オフ・ショットガンを
ぶら下げていた。それとカロンは大きなリュックを背負っている。
ふぅん。
武装変更してるんだ。グリン・フィスも漆黒のコンバットアーマー着込んでるし。パワーアップしてるなぁ。
ただ、クリスがいない。
「グリン・フィス、クリスは?」
「さあ」
「さあって……」
「先ほどまではここで指揮をしていたのですが」
「ふぅん」
むにゅむにゅ。
「うひゃっ!」
「相変わらず良い乳してるな、一兵卒っ! 手入れは万全だな、感心感心っ!」
背後に現れたクリス。
久し振りに会っていきなりセクハラかよ。
パワーアップしてるなぁ。
おおぅ。
文句を言おうとしたものの突然バタバタと走る音が聞こえる。足音は三つ。下からではなく私達が歩いてきた通路からだ。
『タロンシャダーっ!』
どうやら防衛線を突破して邸内に入り込んできた奴らがいるらしい。
扉は開いている。
タロン社の3人の姿を私達は視認する。
クリスは腰の銃を構えた。
今までの32口径ピストルではない。リボルヴァーではなくオートマティック拳銃だ。彼女もまた武装を変えたらしい。
ただ背中に背負うスナイパーライフルは相変わらずだ。
彼女は銃の引き金を引く。
その銃から圧倒的な弾丸が掃射される。
フルオートかっ!
タロン社の3人は呆気なく死骸となる。クリスは微笑した。
「グロック18だ。良い銃だろう?」
「グロック18」
「セミオートとフルオートの2つの機能がある。フルオートの場合、弾丸がばらける為に命中精度は極端に低い。しかし狭い通路、至近距離、その要素が
あれば特に問題があるほどの欠点ではない。結果は見ての通りだ。お前と別行動を取っている間に我々は遊んでいたわけではないよ」
「パワーアップってわけね」
「そうだ」
彼女は微笑した。
次の瞬間、爆発音と同時に屋敷が揺れた。
「どうした?」
クリスはハークネスに問う。
「ミサイルランチャーのようです」
私達はバルコニーの下を見る。
タロン社の部隊がこちらに迫ってきている。その動き、レイダーの比ではない。洗練された部隊だ。こりゃ屋敷に雪崩れ込まれるわね。
何としても止めないと。
ただ問題はブルドーザーだ。屋敷に潜入する前に『車両を鹵獲した』とはあれの事だろう。トロッグの死骸を片付ける際に使ってたブルドーザー、運転席
は前面にある可動式ブレードで隠れている。盾になっている。
その盾に隠れて、運転席の両隣にタロン社のメンバーが取り付き、ミサイルランチャーを撃って来ている。
ある意味であれは戦車だ。
「一兵卒」
「何?」
「そこで見ていろ。……ボクの恥かしい姿を……」
「殺すわよっ!」
茶化してる場合かーっ!
うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああイライラするぅーっ!
ともかく。
ともかくタロン社は戦車を中心に部隊を展開、邸内に雪崩れ込むべく攻撃をしてくる。
能力。
武器。
士気。
全ての面でタロン社が勝っていた。
まだスチールヤードから主力は戻って来ないのっ!
私は銃を構え……。
「一兵卒、下がれ」
「はっ?」
「ハークネス曹長、連中にテクノロジーの差を教えてやれ」
「御意のままに」
ミニガンを置き、妙な銃を構えるハークネス。レーザーライフル?
ハイテクではある。
ハイテクではあるけどテクノロジーの差というほどではない。キャップさえ積めば購入出来る。まあ、かなり高いけど。
その時、緑の光が戦場に降り注いだ。
バジュっ!
妙なライフルから放たれた緑の光は直撃したタロン社のメンバーを灰にした。
ええーっ!
ま、まさかこれってプラズマ兵器っ!
レーザー兵器の高位タイプであり次世代タイプの装備。おそらく科学絶頂期に当時でさえプラズマ兵器はさほど数がなかっただろう。
どこで手に入れたその超ハイテク兵器っ!
クリスは静かに笑う。
「驚いたか一兵卒。A3-21プラズマライフル。未知の兵器の恐怖によって敵を瓦解させるだけの威力を持つハイテクだよ」
「驚いたわよ」
汗を拭う。
まさか生きている間にプラズマ兵器をお目に掛かれるとは思ってなかった。
クリスはさらに言葉を続ける。
「カロン准尉、地獄の炎を連中に味あわせてやれ」
「御意のままに」
がさがさ。
リュックの中から何かを取り出すカロン。
それを戦車に向って投げた。
何だあれ?
グレネードだろうか?
ドカアアアアアアアアンっ!
「つっ!」
耳をつんざくほどの爆発音。
きのこ雲が上がる。
おいおいおいっ!
「驚いたか一兵卒。ヌカグレネード、1発で戦車ごと敵の半分を消し飛ばしたぞ。科学の勝利だな。はっはっはっ!」
「……」
より過激になったぞ、こいつ。
私がピットにいる間にどんな心境の変化があったんだーっ!
「クリス、核使わないでよっ!」
「何故だ?」
「何故って……」
「放射能は1日もすれば消える、ヌカランチャーも同じようなものだ。そういう仕様だ」
「いや、そういう問題では……」
「銃で人を殺すのも核で殺すのも同じ事だ。核に対しての否定は生理的な問題であって銃で殺すのと結果は同じ。……少し過激な理論か?」
「まあ、いいわ」
言い争うつもりはない。
理屈としてはクリスの発言はある意味で真理だ。例えば銃で100人殺すのと化学兵器で100人殺すのとでは、殺す数は同じでも後者には抵抗を覚える人
が多いだろう。核もまた同じだ。生理的な嫌悪が原因というのは確かにあるだろう。って何のリアル話題だ。
タロン社は浮き足だった。
その時、軍勢が私の眼に飛び込んで来た。
スチールヤードに出張ってたアッシャーの軍の主力だ。タロン社は逃げ場を失い、それと同時に士気もまた失っている。
戦局は一気に逆転したっ!
「よし。叩くわよっ!」